このページでは、正しいアレルギー性鼻炎の知識、診断、治療を保護者の皆さんに知っていただきたいと思います。
この記事の要約
- 鼻水が続いているだけでは、アレルギー性鼻炎と診断してはいけません。
- 季節性(花粉離散時期)、環境的要因(ハウスダストやダニなど)との関連を考慮して診断する必要があります。
- こどもは風邪を繰り返して鼻水が出ている場合が多く、その繰り返しにより症状が続いているように見えるため「アレルギー性鼻炎」と診断されている場合があります。
- 温度の変化などで鼻水が出る場合には血管運動性鼻炎でアレルギー性鼻炎ではない場合が多いです。
- アレルギー性鼻炎の診断基準が設けられていますが、こどもには難しい検査もあり、はっきりとしたアレルギー性鼻炎の診断には、時間経過なども含めて慎重に行う必要があります。
- 安易にアレルギー性鼻炎と診断を受け、投薬を続けることは、薬の種類によっては、薬の副反応で成長が妨げられたり、学習に障害がでることもあります。
アレルギー性鼻炎とは
ハウスダストや花粉などで鼻の粘膜が刺激されて起こる鼻の反応を「アレルギー性鼻炎」といいます。最近は発症年齢の低下も進み、こどものアレルギー性鼻炎も多くみられると言われています。
アレルギー性鼻炎は、命にかかわるような重篤な病気ではありません。
しかし、鼻のかゆみや鼻水が続くことにより、集中できず学習に支障をきたしたり、鼻が詰まって眠れず日常生活に影響を及ぼすこともあります。
風邪とアレルギー性鼻炎の見極めが大切
こどもは大人よりも風邪をひきやすく、さまざまなウイルス感染を繰り返す特徴があります。風邪と呼ばれるウイルス感染でも、アレルギー性鼻炎と同じように鼻水やくしゃみが出ることも多々あり、保育園、幼稚園、学校など集団生活をすることで、これらの症状を繰り返すのも、こどもの特徴です。
つまり、風邪によって鼻水やくしゃみが出ていて、それが長く繰り返されているため、まるで長く症状が続いているように見えることがあるのです。
本当にアレルギー性鼻炎による症状なのか、それとも風邪を繰り返しているのかを見極めないと、不必要な治療が継続されてしまう場合もあるので注意が必要です。
クリニックを受診し「アレルギー性鼻炎」と診断されているお子さんの話を詳しく聞くと、ただの風邪の繰り返しであるケースも本当にたくさんあります。
血管運動性鼻炎
また、鼻炎の中にも「血管運動性鼻炎」という病気もあります。気温や体位などにより、体の環境が変わることで自律神経の調節の具合が変化し、鼻づまり、鼻水がでるという鼻炎です。周囲の環境に鼻粘膜の局所自律神経つまり、無意識に作用する神経が過敏に反応して症状が生じます。
「血管運動性鼻炎」は、温度の変化が引き金となって発症することが多い鼻炎です。
- 布団で暖まってくると鼻づまりがしばらく続く
- 暖かい部屋から寒い廊下に出るとくしゃみが出る
- 暑い外から冷房の効いた室内に入ると鼻がズルズルする
例えば、朝暖かい布団から抜け出た直後からくしゃみ・鼻水などがしばらく続き、食事を終え出勤・登校・登園の頃になると症状が改善するケースです。周囲の温度に慣れてくると症状が治まってくる特長があります。
このように、鼻水が続く病気をすべて「アレルギー性鼻炎」と判断してはいけないのです。
透明な鼻水が出る場合
透明な鼻水、くしゃみ、鼻づまりなどがある場合には、以下の病気が考えられるため、問診・診察・検査等でどの病気に当たるのか診断する必要性があります。
感染による急性鼻炎:風邪をひいたときに出る鼻水
アレルギー性鼻炎:花粉症などのアレルギーが関与する鼻水
血管運動性鼻炎:主に温度の変化が引き金となりやすい鼻水
好酸球増多性鼻炎 鼻水に好酸球という免疫細胞がかなり増加している疾患
職業上の刺激物による鼻過敏症:物理的、化学的な刺激により鼻炎が起きたもの
これらの中でも、「感染性鼻炎」「アレルギー性鼻炎」「血管運動性鼻炎」が多いとされています。
アレルギー性鼻炎の診断について
診断基準
アレルギー性鼻炎は、以下の診断基準を満たすものとされています。
- 鼻水(鼻汁)中の好酸球が陽性
- 抗原特異的血清IgE抗体検査の陽性または皮膚試験が陽性
- 鼻粘膜抗原誘発検査の陽性
鼻粘膜抗原誘発検査の陽性とは
アレルゲン(抗原)を染み込ませたディスク(ろ紙)を鼻腔内の小鼻の内側にあたる下鼻甲介粘膜に置いてアレルギー反応として、以下3つのうち2つ以上の症状が見られる。
- くしゃみ・鼻掻痒感
- 下鼻甲介粘膜蒼白腫脹
- 水性分泌
この診断基準をこどもに使用するなら、①と②が現実的です。この他、問診によって症状が出る状況をしっかりと把握することも大切です。
こどものアレルギー性鼻炎の特徴
こどものアレルギー性鼻炎は
- 通年性の鼻のアレルギーが多く、多種のアレルギー物質に反応している
- 自然に良くなりにくい
- 喘息、副鼻腔炎の合併が多い
- 症状の表現が不明確
といった特徴があります。これらを念頭に置きながら診断する必要性があります。
また、症状の表現が不明確なため、症状の客観的評価を問診などから行い、更に鼻鏡検査や鼻水の好酸球検査、皮膚試験、血液検査などを組み合わせて診断する必要性があります。この手順を踏まないと安易に「アレルギー性鼻炎」という診断になり、不必要な投薬を受ける可能性が高くなるのです。
医師だけではなく、保護者の方がこのような診断過程を知っておくことで、正確な診断と適切な投薬につながります。
診断の流れ
アレルギー性鼻炎の診断は、以下の流れで行います。
問診 | |
---|---|
観察 | 鼻鏡による鼻粘膜の観察 |
検査 | 鼻汁好酸球検査 皮膚反応検査 血中特異的IgE抗体検査(血液検査) 鼻粘膜誘発テスト |
治療開始もしくは経過観察 |
この診断の流れで、大事なポイントを解説します。
問診のポイント
以下の点を中心に問診を行うことで鼻炎の鑑別に役立ちます。
どのような時に鼻水が出ているのか(季節性、時間帯はどうか)
→アレルギー性か血管運動性の鑑別
環境要因がどれだけ影響してるか(温度差の影響はないか、ほこりが多いころで症状が増悪していないか)
→アレルギー性か血管運動性の鑑別風邪はひいていないか→感染性の鼻炎の鑑別
家族にアレルギー疾患の方がいるか
→アレルギー性鼻炎の遺伝的な要因の考慮
喘息、食物アレルギーなどの他のアレルギーの既往はないか
→アレルギー素因の考慮
観察と検査
次に観察と検査です。検査は必須ではなく、臨床症状や理学所見から花粉症と診断するケースも多くあります。鼻鏡で鼻粘膜を観察し、アレルギー性鼻炎だと、粘膜が青白くふくらんでいたり、鼻水が粘膜の周りを覆っていたりします。
検査①:鼻汁好酸球検査
「鼻汁好酸球検査」は、風邪の初期症状とアレルギー性鼻炎の症状を見分ける検査です。スライドガラスに鼻水をとり、試薬を加えて好酸球の数値を調べます。好酸球の数値が増加しているとアレルギー性鼻炎と診断されます。
検査②:皮膚反応検査
「皮膚反応検査」は、抗原を特定する検査です。抗原液を注射したり、ごく浅い傷を作って抗原液をたらす等をして、皮膚の反応をみます。抗原に対する抗体を持っていると、かゆみや腫れなどの症状が現れます。検査結果に影響を及ぼすため、薬を服用している場合は必ず医師に相談することが必要です。
検査③:血中特異的IgE抗体検査
「血中特異的IgE抗体検査」は抗原を特定する検査で、採血し、抗原に対する抗体の有無を調べます。
検査④:鼻粘膜誘発テスト
「鼻粘膜誘発テスト」は抗原を特定する検査です。抗原を染み込ませたろ紙を鼻粘膜に置いて反応をみて、くしゃみや鼻水などの症状が現れることによって、抗原を特定します。
これらのうち、鼻汁好酸球検査、皮膚反応検査、血中特異的IgE抗体検査がこどもでは実施可能な検査になります。
診断と治療
これらの問診、検査をもとに診断し、日常生活にどれだけ支障が出ているかを考慮しながら、まずは、抗原と接触しないようにする生活環境の整備の指導を行います。
それでも症状が改善されないようであれば、内服薬のメリット、デメリットを十分説明した後に、治療を開始します。
こどものアレルギー性鼻炎のまとめ
こどものアレルギー性鼻炎は年々有病率が上がっていると言われていますが、必ずしも「鼻水が続いている=アレルギー性鼻炎」ではありません。
しっかりとした問診、診断過程を踏むことで正確に診断し、本当に必要な治療をすること、その一環として薬を飲むことがあるということを、医療従事者も保護者の方も知ることが大切です。
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