マイコプラズマってなに?
風邪などを起こす細菌の1種
マイコプラズマは、風邪、肺炎、気管支炎などを引き起こす細菌の一つです。
しかし、一般の細菌とは少し構造が異なります。一般の細菌は細胞膜と細胞壁の2種類で体が囲まれていますが、マイコプラズマは細胞壁を欠き、細胞膜のみで囲まれています。この構造の違いにより、他の細菌とは区別されており、効果のある抗生物質も特別なものとなるのです。
増殖については、ウイルスのように他の生物の細胞の力を借りるのではなく、細菌と同じで自力増殖すると言われています。
どんな症状が出るの?
- 咳
- 咽頭痛
- 頭痛
- 倦怠感(だるさ)
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛
その多くは軽症のため風邪と区別がつきませんが、
- 上気道炎
- 肺炎
- 気管支炎
- 腸炎
- 髄膜炎
- 脳炎
などを引き起こす場合もあります。マイコプラズマが直接、 体に悪さをするだけではなく、感染した人の免疫反応を利用して間接的に体に症状を引き起こすと考えられています。
感染すると必ずマイコプラズマ肺炎になるの?
肺炎になる確率は3~5%
マイコプラズマに感染して肺炎になるのは、感染者の3~5%程度です。とくに幼児〜学童が肺炎を起こしやすく、免疫反応が弱いこともあって、何度でも感染する可能性があります。
マイコプラズマ肺炎の典型例としては、感染後に発熱し、その後だんだんと咳が強くなってくるという点が特徴です。徐々に咳が強くなってくるというのは、直接マイコプラズマが人体の組織に悪さをするのではなく、感染した人の免疫反応が組織にダメージを与えるためであると考えられています。
マイコプラズマには、「活性酸素」という人体にダメージを与える物質を産生して肺や気管支の組織を傷害する作用があります。その他に、より強い炎症を伴う肺炎は、マイコプラズマによる直接的な作用だけではなく、感染した人自身の免疫反応が作用し、引き起こされるといわれています。
マイコプラズマは、
- マイコプラズマは、マイコプラズマが直接体にダメージを与える作用
- マイコプラズマに感染した人自身の免疫が反応し、その反応が肺炎を引き起こす作用
といった2種類の作用によって病気が引き起こされます。
咳の特徴としては、痰を伴わない乾いた咳が続くのが典型例です。好発年齢は、幼児から学童、とくに5~12歳に多くみられます。
感染の経路は患者の咳のしぶきを吸い込んだり、患者と身近で接触したりすることにより感染すると言われています。感染してから発症するまでの潜伏期間は長く、2~3週間くらいとされています。
マイコプラズマはどうやって診断するの?
マイコプラズマ感染症を診断する方法としては、以下のものが挙げられます。
- 血液のマイコプラズマに対する抗体(IgM) を調べる方法
- 痰や咽頭のぬぐい液からマイコプラズマのDNAを増やして検出する方法
マイコプラズマ感染の診断には、①lgMという感染後初めに上昇する抗体(自分自身の体が作る病原体をやっつける物質)を検出する方法と、②喉のぬぐい液からマイコプラズマのDNAを増やして検出する方法があります。
マイコプラズマは検査ですぐに診断できるの?
迅速検査の有効性
マイコプラズマをその日のうち、もしくは1~2日のうちに診断する方法は2種類ほど存在します。
- lgM(体が作り出す抗体)を検出する迅速法(当日結果がわかります)
- マイコプラズマのDNAを増幅する迅速法(2~3日以内に結果がわかります)
しかし、これらの検査方法は精度が低くあまり有効ではありません。その理由を以下にご説明いたします。
IgM検出迅速検査が早期診断に有効ではない理由
マイコプラズマに感染するとマイコプラズマが増殖するのには2~3週間かかります。 その後、感染した人の体が マイコプラズマを認識し免疫反応が始まります。その結果肺炎が進行します。その後遅れてIgMという抗体が日単位で上昇します。マイコプラズマ肺炎があっても、感染初期ではIgMが検出されないこともあるわけです。
IgMを検出するマイコプラズマ迅速検査では、感染初期にマイコプラズマIgMが上昇していないこともあり早期診断をすることは難しいのです。また、成人ではこのIgM抗体の反応が非常に弱いかほとんどないこともあり、検出ができないができないこともあります。
一方小児では抗体反応が強く長期に持続するため、実際の感染から長期にわたり、IgM 抗体が検出され続ける場合のあることが知られています。 このような点から、IgM迅速診断法は、マイコプラズマに感染していても、「陰性=感染していない」という結果が得られたり、過去に感染していて、今回はマイコプラズマに感染していなくても「陽性→感染している」という結果が得られたりすることがあり、正確ではありません。
マイコプラズマDNA検査が早期診断に有効ではない理由
一方、抗体ではなく喉から採った検体を使用し、マイコプラズマのDNAを検出する迅速診断法もあります。
マイコプラズマは、唾液などにのって他人の気管支や肺まで到達し、そこで増殖したマイコプラズマが肺炎を引き起こすきっかけになります。 基本的に咽頭・扁桃などの上気道でマイコプラズマが盛んに増殖しているわけではありません。 これらの部 位で検出されるマイコプラズマは、たまたま痰や咳によって下から運ばれてきたものであり、そもそも上気道に存在す る菌の量は少ないと考えられます。
したがって、実際にマイコプラズマが肺炎を起こしていても、咽頭からの検体中には、菌体がほとんど存在しない場合もあり、検査結果が陰性であっても、必ずしもマイコプラズマ感染症を否定できないのです。
以上をまとめますと、迅速診断方法として、IgMを検出する方法、DNAを検出する方法などいくつかの方法が実用化されていますが、
- マイコプラズマ感染、マイコプラズマ肺炎の発症からIgM抗体の産生までには時間差があること
- IgMの反応が大人では弱いこと
- こどもではIgMの反応が長期に持続すること
- 肺炎の経過中においては咽頭などの上気道には必ずしも菌体数は多くないこと
などの理由から早期診断は難しいのです。
こういったことから、年齢、病気の経過、レントゲン所見などから総合的にマイコプラズマ肺炎、気管支炎と診断することが多いのです。実際の検査で確定診断することもできますが、臨床症状とレントゲン所見から判断することが重要な疾患なのです。
確定診断はあるが、疑問も残る
検査で確定診断をすることも可能です。 マイコプラズマ肺炎などマイコプラズマ感染症の確定診断を行うには、血液 中のIgM抗体を微粒子凝集反応を利用し、検査する方法が有効です。
さきほどご説明した迅速のIgM検査とは異なります。成人ではこのIgM抗体の反応が非常に弱いかほとんどないという問題点があり、一方小児では抗体反応が強く長期に持続するため、実際の感染から長期にわたり、IgM抗体が検出され続ける場合があることが知られています。
しかし、このIgMの上昇の度合い、IgMの上昇の時間的な推移を検査することにより確定診断が可能になります。IgMの度合いの判断基準として一回の採血で「320倍以上の値が出た時」などを急性感染の目安とする場合があります。
成人における判断基準としてはある程度妥当ですが、小児においては320倍程度の抗体価が数か月間認められる場合があり、一回だけの採血による判断は危険です。 年齢に関わらず信頼性があるのは、2週間ほど間隔を空けて採血し、 その2回のIgMの上昇の程度を時間経過で観察することが必要です。 2週間ほど間隔をあけた2回の採血で「4倍以上の変動を認めた場合」、マイコプラズマ感染症と確定診断できるのです。
しかし、IgMの時間的変化をみても、2週間後に採血する頃には症状は治まっていることが多く、本当にIgMの変化をみるべきかは疑問が残ります。キャップスクリニックでは、IgMなどの検査は上記の理由から行っておりません。
マイコプラズマのDNAを検出する方法もありますが、上で述べたように菌量が少ない初期には陰性になる可能性があり、また、結果も検査室での検査のため数日かかり、すべての患者さんにふさわしい検査ではありません。
当院では、年齢(乳児、低年齢では少ない)、臨床症状、レントゲン所見、採血 (炎症反応の度合い)結果などを総合的に考えてマイコプラズマの診断を臨床的に行い、そのうえで必要に応じてDNA検査を行いながら、2~4日後の確定結果にて最終判断するようにしています。
マイコプラズマ感染症の治療
効果のある抗生物質
マイコプラズマ感染症は基本的に自然治癒する疾患です。必ず抗生剤治療が必要なわけではありません。すでにご説明している通り、マイコプラズマ感染者の3~5%の方が肺炎などを発症します。キャップスクリニックでは、肺炎、気管支炎などのレントゲン所見がある場合に限り治療対象としています。
抗生剤については、マクロライド系抗生物質(クラリス/クラリシッド、ジスロマックなど)が有効とされていましたが、近年マクロライド系の抗生物質は効きにくくなっています。 これは、抗生物質の乱用、抗生物質が適切に使用されてこなかったことが背景にあります。 他にニューキノロン、テトラサイクリン系抗生物質 も効果があります。
しかし、マクロライド系抗生物質(クラリス、クラリシッド、ジスロマック)で効果がある菌としては、 もっとも有効であり、ほかの抗生物質では一部で気道に菌が残り感染を広げる可能性もあることから、現在でも第一選択薬はマクロライド系抗生物質になります。 マクロライド系抗生物質では効果がなく、マイコプラズマ肺炎の確定診断がついたお子さんには、そのほかの抗生物質であるオゼックス、ミノマイシンを投与することもあります。
ただし、ミノマイシンは8歳未満のお子さんが服用すると歯芽を黄色く変色させ、永久歯に黄色い線が入ってしまうことがありますので、原則禁忌です。細胞壁合成阻害剤であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生剤は効果がありません。
必ずしも抗生物質は必要ない
確定診断された場合、マクロライド系抗生物質の投与期間は10日間、第二選択薬であるオゼックス、ミノマイシンの投与期間は7~14日間必要となります。
学校で流行した場合、必要があれば校長が校医の意見を聞き、第三種学校伝染病としての処置を講じることができる疾患です。急性期が過ぎて症状が改善し、全身状態の良い方は登園登校可能です。
マイコプラズマ感染に伴う咳などの諸症状は長引くこともありますが、基本的に自然に治癒しますので必ずしも抗生物質は必要ではありません。しっかりと体力を回復させ、水分栄養補給と休養が重要です。
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